第四話 飲みニケーション

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 そんなこんなでどれだけ飲んだんだろうか。いっこうに来ないつまみは如月いわく注文が通っていなかったらしい……。それに気が付いた頃にはもう何合飲んだのだろうか。空きっ腹は日本酒で満たされていた。  いや、むしろこんなに美味い酒が揃っているんだ。つまみで腹を満たすなんてもったいない! おや、気が付けば、横で部長と如月は焼き鳥やら何やら食べているではないか。いつの間に……。まあ、俺はいい、今夜は日本酒だけで十分だ。そう、今日はここの酒を全制覇するのだから。気合いで勝負だ! 負けないぞ! 「ちょっとお手洗いに行って来ます」 そう言うと如月が席を立った。おや、何か落としたぞ。名刺だ。北条レイナ? クラブアイリス? ああ、キャバクラの名刺か……。あいつ、そんなところにも行くのか。 「おや、剛田君、何か拾ったのかい?」 「はい。如月が落として行ったんです」 「どれどれ……。おー、アイリスね! そう言えば最近行ってないなあ! レイナちゃん、元気かなあ。そろそろ顔を出しておかないと! あ、そうだ! この後、剛田君も一緒にどうだい?」 部長……。なんというお誘いを。いい歳した妻子持ちが、いや、だからこそか……。 「えっと、それは……」 さすがに答えに困るぞ。俺は硬派で通っているんだ。そんな軟派なところには行けない。何かの拍子で今夜の事が真里菜たんに知られたら大変だ。それはもう、大変なキャラ崩壊だ。 「あれ、部長、どうしたんですか?」 おお、いいタイミングで如月が戻ってきた。 「いやね、久しぶりにアイリスに行こうと思うんだけど、どうかね?」 「おーいいじゃないですか! 部長お気に入りのレイナちゃんにも会わないと。そろそろ忘れられちゃいますよ」 ああ、如月に何かを期待した俺が馬鹿だった。分かってはいたけど、コイツは本当にもう……。 「剛田くんも行きたいよね?」 さっきからそうだが、今日の如月はなぜ会話の度に徳利を持ち出すのか。そうか、俺がお猪口を空け続けているからか……。如月め、目敏く空になったお猪口を見るやいなや、楔のように次の一杯を注いできやがる。そして、気付けばそれに抗えない自分がいる。畜生……。
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