第一話 ミステリアス

2/4
前へ
/70ページ
次へ
 そう、憧れの如月颯太先輩。いつか私の物にしたい。そしてそのうち「ソウちゃん……」「マリちゃん……」なんて言って、甘い夜を過ごして……。ダメダメ、妄想が止まらなくなっちゃう。  如月先輩は東西線の日本橋駅を下車して通勤してくる。必ず、八時四十一分着の浅草線で来る。始業は九時。けっこうギリギリだ。でも、そんなところもお茶目で素敵!   そして、迷路のような地下通路を抜けて、必ずB四出口を八時四十四分三十秒くらいに通過する。そして私は、その出口前のコンビニで買い物をしながら先輩を待つのだ。  あっ、先輩だ。今日に限ってコンビニのレジが進まない。お昼ご飯の予定だったエビとブロッコリーの全粒粉サンドと野菜ジュースを商品棚に戻した。仕方がない。今日のお昼はどこかのお店でランチにしよう。  急いで先輩を追いかけた。会社までの五百メートル、その距離が二人きりでお話できる数少ないチャンスだから。 「如月先輩!」 「おー奥村さん」 「おはようございます」 「おはよう」 いつもここで言葉に詰まる。如月先輩のせいだ。本当はいろいろお話したいのに、それをさせてくれない。無理もない、こんな素敵な先輩の前で自然におしゃべりなんてできっこない。  こうやって肩を並べると、やっぱり背が高いなあ。百八十センチあるらしい。素敵! あと、この黒縁眼鏡に黒髪ショートの清潔感、中性的な顔立ち、そして何より、何を考えてるか分からないミステリアスな感じ、ああ、ヤバい、ヤバいとしか表現のしようがない。  いつもこんな時、如月先輩から何か一言ある。そう、他愛ないお喋りはいつも先輩から。それが嬉しかった。 「いつもこんな時間に出社して、遅刻しない? 大丈夫?」 その優しい声に癒やされて……。今なんと? 遅刻? するわけない。秒刻みの出社スケジュールに今まで寸分の狂いも生じた事はない。それもこれも、如月先輩のお陰で。ただ、出社後に更衣室に寄るから、出勤時間は先輩よりも本当にギリギリなのだけど……。 「大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます! 先輩って、やっぱり優しいんですね」 私を気遣ってくれる先輩、やっぱり素敵! ヤバい!
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加