第四話 飲みニケーション

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   七月三十日(火) 剛田健介  ここで吐いたらマズい、八重洲の地下街は会社の誰が見ているか分からない。走るのはみっともないが、こんなところで吐くのはさらにみっともない。ああ、ダメかも、また喉まで上がって来た、血の気も引く……。ダメだ、何か甘い物、甘い物が欲しい……。  ああ、自販機がある。スポーツドリンクだ、これを飲みながら走れ! 走れ俺!  会社のエレベーターに乗った。誰も乗っていなかった。良かった。同乗者がいたら酒臭さがバレる。今何時だ? 八時五十八分! マズい! 緊急事態だ。よし、五階についた、デスクまでダッシュだ! 「オー剛田、おはよう。お前、昨日は凄かったなー」 「剛田先輩、おはようございます……」 あっ、憎き如月と今日もかわゆい真里菜たん……。 「おはよう……」 ダメだ、声がかすれている。酒焼けだ。よし、PCを開いて、パスワード、そしてまたパスワード、勤怠管理システムにパスワード入力、からのログイン、で勤務開始!  あー! 畜生! 畜生……。畜生……。九時一分……。目の前のモニターが涙で滲んだ。この日、入社以来初めての遅刻となってしまった。そして、あまり記憶が無いが、昨日は何だかいろいろと大切なものを失ったような気がする……。  女性の体ってあんなにも柔らかくて温かいんだな。それだけは鮮明に覚えていやがる……。畜生……。あっ何これ、ポケットにメッセージ付きのカードが入っている。丸くて可愛らしい文字だな、何だろう。不本意だが、後で如月に聞いてみるか。
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