第五話 沼

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   八月二日(金) 林田政信  あの日は楽しかった。日本酒の飲み放題にキャバクラでのバカ騒ぎ。いつものサシ飲みとは違って、男が三人集まると楽しさも格別だ。ああ、懐かしい。古き良き時代を思い出す。  剛田君には驚かされた。あれほどの酒豪だったとは。そしてあのノリの良さ! 如月君と剛田君って、ちょっぴり仲悪いのかな、なんて思っていたが、良いコンビじゃないか。  キャバクラで解散した後、二人でどこに行ったのだろうか。いや、それを考えるのは野暮だな。彼らも男だ。きっとムフフな世界に乗り込んだのだろう。そこは聞かないでおいてやろう。  しかし、私も彼らの上司として一つ気になる事がある。最近、剛田君の様子がおかしいのだ。昼休みになると、何やらピンク色の名刺と睨めっこをして、スマホを取り出して、今度はスマホと睨めっこ……。思い悩んだ素振りで、休み時間が終わると、それをしまうのだ。あれは何だ? 勤務中もどこか上の空、バリバリ働く熱血男の剛田君、いったいどうしてしまったのか。
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