第五話 沼

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   八月八日(木) 神楽凜  いよいよ剛田君が心配だ。残業が減った。それは良いことだ。しかし、パフォーマンスはその残業時間以上に大幅に低下している。いつも上の空だ。あんまり興味はないが、いったい何を考えているのか。まさかこの前の遅刻騒ぎの一件をまだ引きずって? いや、さすがにそれはないか……。  いずれにしても、最近は如月君が彼をフォローしてくれているので、こちらも助かる。何だかんだ、如月君、優しいじゃないの。また見直した。如月君の営業実績は良くも悪くもいつも通りだ。低空飛行ながら、どんな時にも一定の成果を挙げる。彼も存外悪くないのかもしれない。如月君への評価は再考すべきかもしれないな。もっとも、私はまだ上司ではないのだが……。  そうそう、こんな時は奥村さんも一戦力として頑張ってもらいたいものだ。まあ、新入社員なので、あんなものか。過度な期待をしてはいない。半人前くらいのパフォーマンスを発揮してくれれば、あとは私がカバーできる。  しかし奥村さん、社内の男性達の間では天然ゆるふわ系で通っているけれど、女の目はごまかせない。打算と戦略に満ちたその立ち回り、次々と男を丸め込む技量、私には真似できない。恐れ入った。聞けば、新人の中で唯一ギリギリの出社を黙認されているらしいじゃないか。それに、あの男達のいなし方、恋愛経験値は相当高いと見た。末恐ろしい子だ。
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