第五話 沼

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   八月九日(金) 如月颯太  剛田は沼った。それも完全に。全てが計画通りだ、しめしめ。これで俺の安寧が保たれる。何なら、ちょっと剛田を気遣うふりをして追加点ゲットだ。チョロいもんだ。ざまあ見ろ! 「おーい! みんな! 今晩空いている人いるかー!」 林田部長だ。部長から皆に声を掛けるなんて珍しい。何だか入社当初の古き良き時代みたいで良いなあ。 「私は遠慮しておきます。ジムでランニングをする予定です。せっかくのお誘い申し訳ございません」 相変わらず、神楽先輩はストイックだな。飲みの場だって重要な社交の場なんだぞ。まあ、小うるさい先輩がいなければ羽を伸ばせるってもんか。 「私も、今日は……。ちょっと、野暮用と言うか、何というか……」 剛田め。何が野暮用だ。どうせキャバクラ行ってピンサロ行って、そんで、さっき教えてやったソープにも行くんだろう。生活が破綻して辞められても困るし、金銭感覚だけは今度教え込まないとな。生かさず殺さずだ。 「あっ、僕、行けますよ」 そう、俺はもちろん参加だ。あれ、奥村さんの返事がない。おっと、よく見ると部長の隣に立っているではないか。彼女は参加確定で三人って事か。まあ、いつもの部長とのサシ飲みも退屈になってきたしな。退屈しのぎには丁度良いか……。  ああ、しまった! 失敗した。もし今「僕も行けません」とか言ってたらどうなっていたかな。林田部長と奥村さんのサシ飲みになる。林田部長は遠慮するかな? 一瞬戸惑うだろうな、でもきっと、誘惑に勝てなくて二人で行っちゃうんだろうな。  で、不倫して、ズブズブと沼にハマる。お盆空けたら大変な事になって、来月には部長の首がすげ変わっていたりして……。うーん、これも違うな、もっと刺激が欲しいな……。
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