第五話 沼

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   八月十日(土) 奥村真里菜  昨日の先輩は凄かった。「何かあったら、俺が守る」なんて、キャー! もうダメ、思い出しただけで溶けちゃいそう。「俺の事『ソウちゃん』って呼んでいいよ」なんて言ってくれたのも、嬉しかったなあ……。  でもさすがに「俺と結婚してくれ」ってのは冗談よね……。きっと、それだけ好きって事ね。ホント、何考えてるんだか分かんない! ミステリアスなんだから!   それにしても、普段はミステリアスな先輩ってあんなに激しかったんだ。野生のオスって感じ。あんな風に言葉で責められたの、初めて。クセになっちゃう。それでいて、優しくて、激しくて、もうそれは野獣のようで……。忘れられないよ、先輩……。いや、ソウちゃん……。  まだ起きないな。ソウちゃんのスマホでアラーム鳴らしちゃおう! 昨日スマホにパスワード入力するところ見ちゃったから、ソウちゃんの事、もうぜーんぶ分かっちゃうんだから……。  そんなこんなで、アラームが鳴ってソウちゃんが起きた。 「ソウちゃん、おはよ!」 そう言って、その広い背中に吸い寄せられるように、私はピッタリとくっついた。 「えっ、あっ、えっと、その……。おはよう」 振り返る背中越しの顔もまた、尊かった。ああ、堪らない……。 「おっ、お、お、お、奥村さん?」 何? 今更「奥村さん」だなんて、他人行儀だなあ。寝ぼけてるのかな? と思って笑ってしまった。可愛いなあ。 「やだー、ソウちゃん、昨日みたいに『マリちゃん』って呼んで」 華奢なように見えて、その肩幅、首筋、やっぱり、ちゃんと男の子だった。 「ねえ、昨日みたいに私を激しく罵ってみて。それで、優しく激しくめちゃくちゃにして!」 私のメスの本能に訴えかけてくる、ソウちゃん……。罪深い人……。 「しよっか、五回目」 気が付けば、はしたない提案をしていた。
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