第六話 東雲の景色

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第六話 東雲の景色

   八月十六日(金) 如月颯太  お盆休みが終わった。休み期間中、奥村さん、いや、マリちゃんからは、事あるごとにメッセージが届いた。友達と遊びに行ったとか、実家帰ったとか、アイス食べたとか、蚊に刺されたとか何とか……。  それはもう、SNSでも上げないような詳細な近況報告が送られてきた。それらの報告に添えて「今何してる?」と聞いてくるのが、日課だった。その返答のほぼ全てが実家にいるとか友達と一緒だとか、ちょっと忙しい感じを出して、当たり障りのない答えに終始する。下手をすると「暇なら会えるじゃん!」となるからだ。  そう、俺はまだ、彼女との関係を上手く定義付けできていなかったのだ。この曖昧な関係をどのようなかたちに落ち着かせるのか……。悩んでいるうちに、休みが終わった。  休み明けの初出社、いつものB四出口から地上に出ても、マリちゃんはいなかった。ここから少しの会社への道のり、それを無言で歩くのは新鮮だった。気楽なような、淋しいような……。  いつも通り、五分前行動で出勤すると、そこには既にマリちゃんがいた。あと、すっかり大人しくなった剛田もいた。こいつ、文字通り、骨抜きにされたな。無様なもんだ。 「おはよう」 「おう……」 「おはようございます! 如月先輩!」 良かった、マリちゃんから会社でも「ソウちゃん」なんて言われたら、たまったものではなかったが、杞憂に終わった。 「おはよう、奥村さん」 彼女はニッコリと笑っているが、俺はこんな時、いったいどんな顔をしたら良いのだろうか。彼女との関係性にはきちんとケジメを付けなければなるまい。といった一欠片の理性にブレーキをかけるものがあった。彼女の奥底に眠る、メンヘラ気質だ。
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