第六話 東雲の景色

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「神楽先輩、僕に今できる事ってないですか」 「そうね、じきに法務部からいろいろと確認が入ると思うわ。情報が錯綜しているかもしれない。念のため、こちらの手元にある四星商事の契約書類を全て整理しておいて」 「分かりました」 「本当に分かってる? 最新の売買契約書、取引基本契約書、あと、できるだけの納品書、請求書、それらのコピー。法務部からの質問には即座に答えられるように整理しておいて」 「はい……」 「おい、神楽君、ちょっとこっち、手伝ってくれ」 林田部長の声だ。 「はい、ただいま伺います!」 そう言うと先輩は長い髪をなびかせて素早く踵を返し、部長の元に向かった。最悪だ……。 「おい、如月君、君もこっちに来てくれ」 林田部長だ。 「はい、ただいま!」 素早く部長の元に走り、頭を下げて開口一番に言った。 「部長、申し訳ございませんでした!」 「まあまあ、長い人生、こんな事もあるさ。今は目の前のこと。つまり、今できる事に集中しよう」 部長の言葉にはホッとさせられた。普段はおちゃらけた部長だけど、きっとこんな荒波を何度も経験したのだろう。だからこその落ち着きようなんだろうな、と、この時ばかりは、この人の部下で良かったと目頭が熱くなった。  部長は手元で鳴り止まない社用スマホをいったん神楽先輩に託すと、俺に言った。 「さて、手分けをしよう。これが今回の騒動で影響を及ぼす仕入先のリストだ。どこもお怒りだ。それは分かるね。彼らにとっての大口の販売先が急に無くなってしまったんだから。だから、我々は怒っている人に丁寧に、慎重に、事の顛末と今後の対応、つまり代替となる販売先をこれから探しますと説明して、安心させなければいけない」 部長はまるで新入社員に説明するように、平易な言葉で俺に説明した。そうでないとその状況を理解できない程に、俺は動転した様子だったのだと思う。 「このリストのここから上は私が対応する、ここから下は如月君、君にお願いできるかい? そして、この資料。これは今回の顛末を完結に私がまとめたものだ。状況説明に役立てて欲しい。そして、もう一つ。知っての通り、四星商事には売掛金も買掛金もある。複雑な商流のビジネスも多い。その関係を示したのが、この資料だ。これも私が作成しておいた。これらを駆使して、一社ずつ電話で謝罪し、今後の対応策も含めて、丁寧に説明するんだ」
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