第六話 東雲の景色

4/17
前へ
/72ページ
次へ
「でも部長、これじゃあ殆ど部長が対応する事になるんじゃ……。僕の担当なんて全体の二割くらいじゃないですか!」 「いいんだよ。これは簡単な仕事ではない。だからこそ、時間をかけて、慎重に言葉を選んで、丁寧に説明するんだ。分かったかい?」 「分かりました。ありがとうございます!」 部長に深々と頭を下げた。俺はかつて、こんな角度で部長に頭を下げた事があっただろうか……。  結局、諸々の対応が済んだ頃には二十三時を回っていた。林田部長、神楽先輩、俺の三人が寄り集まったデスクの上だけに煌々と灯りがともっていた。 「よーし、今日はもう十分だ。帰ろう!」 残務処理の静寂を破ったのは、林田部長だった。この時間で皆ヘトヘトだ。さすがに「よし! 飲みに行くぞ!」とはならない。 「部長、僕はもう少し残ります」 「手伝おうか? 何が残ってる?」 「四星商事の代替となる販売先の調査です」 驚いた顔で神楽先輩は俺を見て、そして言った。 「正気なの? 今から? 四星商事売りの仕入先って何社、何アイテムあると思っているの?」 林田部長も続けた。 「今日の連絡でいったん取引先の熱は引いたんだ。そんなに根詰めてやる事ではない。今日は帰ろう」 「じゃあ、明日休日出勤させて下さい」 皆に迷惑をかけっぱなしだ。このままでは終われないと思っていた。部長は少し笑った。 「その泥臭くて不器用な感じ。何だか私の若い頃を思い出すなあ。分かった。ただし、今日はもう返って、飯食って風呂入ってすぐに寝る! それだけ約束してくれよ」 「あの……」 神楽先輩が控え目な口調で言った。 「私も明日手伝います。如月君ひとりでは非効率です。私にもやらせて下さい」 「そうだな、まあ、いいだろう。無理はするなよ」
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加