第六話 東雲の景色

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如月君と手分けをして新規顧客先リストを作成し終えたのは昼過ぎの事だった。 「いやー、やっぱり神楽先輩って凄いですね! 僕、この仕事で実は明日も出社する覚悟だったんですよ」 「何事も効率的に。泥臭さの他にも仕事で大切な事はあるの」 「恐れ入ります。ところで先輩、お昼時ですし、これから一緒にランチしません? 今日のお礼にご馳走させて下さい!」 えっ、ご飯のお誘い? この子、いったい何を考えているの? ああ、まただ、この表情。何ともいえない、ミステリアスな表情をする。そのインテリぶった黒縁眼鏡の下にあるつぶらな眼のその奥に、いったいどんな感情が隠れているの? ああ、気になる……。いけない。彼は今、言ったじゃない。「今日のお礼に」って。そう、それ以上でも、それ以下でもない。 「先輩、何系にします?」 あれ? 私まだイエスともノーとも言っていないんだけど……。私、行く事になってる? まあいいわ……。この類いの質問には、なるべく「なんでも良い」と答えないようにしている。もし「ちょっと違うな」という提案をされた時に却下しにくいからだ。 「そうね、じゃあイタリアンはどう?」 「あー、良いですね。じゃあ、モチモチ系の自家製パスタの店か、クリーミーなスープパスタが売りの店、どっちが好みですか?」 驚いた。如月君、普段飲み歩いているだけあって、お店の知識だけは豊富ね。即座に女心をくすぐる選択肢を二つも挙げてくるとは。 「そうね、じゃあモチモチパスタの方で」 「りょーかいでーす!」
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