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「如月君! 大丈夫?」
「いてて……。大丈夫です」
少し膝をすりむいた、でも、その程度だった。ジムのスタッフが大袈裟にかけつけて、その場で消毒やら絆創膏やら、素早く応急手当をしてくれた。俺と先輩はスタッフにお礼をした。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます……。まったく、如月君ったらドジね」
そう言うと、目が合って、お互い少し笑った。神楽先輩のあんな自然な笑顔を見たのは初めてだった。丁度キリも良かった。シャワーを浴びてから更衣室で着替えて、帰る事にした。
ジムを出て、マンションのロビーに差し掛かったところで、今度は天地が逆転、とまではいかなかったが、地面が揺れた。それより少し早いか、同時くらいだった。ふたりのスマホ、厳密には、ふたりそれぞれの社用スマホと個人スマホの計四台が一斉にけたたましいアラーム音を鳴らした。緊急地震速報だ。震度六弱だった。お互いその場にしゃがみ込み、俺は鞄で神楽先輩の頭を守った。
「あなた、私なんかより自分の心配をしなさい!」
「だって、俺の頭より、神楽先輩の頭の方が大事だから!」
自分でも何を言っているのかよく分らなかった。
「今の、何?」
揺れが収まってから神楽先輩が笑った。
「いや、だって、俺の頭より、神楽先輩の頭の方がいいから、大事かなって……」
「何それ、ばっかみたい」
神楽先輩は照れくさそうに笑って言った。
「多分、電車、止まるよ。しばらくうちで過ごしたら」
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