第二話 ライバル

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第二話 ライバル

   七月十日(水) 如月颯太  エレベーターに汗だくの男がいた。同期入社の剛田健介だ。今年四月に、俺のいる第三営業部に配属となった。彼にしては遅い出社だ。真面目な男だ。遅刻を恐れて駅から走ってきたのだろう。  真面目、と言うよりは堅物だ。何にでも白黒はっきりつけようとする、不器用で融通が利かない男……。その上に、その訳の分からない正義感を俺にも押し付けてくる。今時硬派を気取ったところで何も良いことなどないだろうに。  流行らないそのスポーツ刈りみたいな短すぎる髪型も気に食わない。それにスポーツ万能の熱血漢で筋肉質だ。暑苦しい事この上ない。ますます気に入らない。  何より気に入らないのは、剛田の身長が百八十一センチという事だ。そのオーバーした一センチが気に食わない。俺に分けろって話だ。ただ、それでも女性からの評価という観点では剛田に勝てる。そのデカい図体は意外と身長を低く見せるのだ。ほぼ同じ高さの正方形と縦長の長方形では、長方形の方が高く見える。トリックアートってヤツだ。そこでだ、俺はコイツの身長は百七十九センチって事で噂を流してある。ざまあ見ろ。  エレベーターを降り、PCを立ち上げてパスワードを入力する。そして、ソフト使用ライセンスとか言う訳の分からない物の為にもう一度パスワードを入力する。続いて、勤怠管理集計ソフトを開いて、またまたパスワードを入力する。最後に社内のイントラネットにアクセスすべく、これまたパスワードを入力する。  これでようやく仕事を始めるのだが、現在時刻は八時五十五分。きっかり五分前行動だ。これがスマートな男の嗜みだ。 「今日ばっかりは人の事言えないけどよ……」 向かいのデスクから剛田が言った。
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