第六話 東雲の景色

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「いやー。えーっと、それは、とりあえずまた今度ですね、じゃない、今度だよ」 「今度っていつ? 仕事でも納期は重要よ」 「十一月あたり、とか?」 「十一月ね。十一月のいつ?」 「……。いつか」 「まったく、ダメね。まるで具体性に欠けるじゃない」 彼はたじろぎながらも、自身のパンツを拾って、それを履いた。 「じゃあ十一月末までに同棲開始! 引っ越しの手はず、整えといてよね!」 「そうですね、じゃない、そうだね……」 その時、私はハッとした。いつもの仕事モードになってソウちゃんを詰めている。本当は私が詰められたいのに!   すっかりかき乱されて、そして昨晩、メスのカラダにさせられてしまった私から野性がこぼれ落ちた。急いで彼が着た汗臭いランニングウェアも気にならなかった。 「行く前に、昨日みたいにもう一回辱めて!」 彼はまた戸惑った。 「いや、それはちょっと……」 「ソウちゃん、どうして? お願い今すぐに欲しいの。さあ、早く! ちょうだい!」 「いや……。例えば、どんな事を言ったらいいのかな……?」 「ええ? それをわたしに聞くの? 酷い! 何てデリカシーのない!」 もうそこに昨晩の「ソウちゃん」はいなくて、まるでそれ以前の「如月君」に戻ってしまったみたいで、寂しかった。 「もういい、今日は帰って! でもその前に……」 もっと名前を呼んで欲しい、と、そう思う私がいた。 「『行ってくるよ、リンちゃん』って言って」 「……。行ってくるよ、リンちゃん」 「行ってらっしゃい、ソウちゃん!」 ソウちゃんは丁寧に玄関のドアを閉めると、その足音は次第に遠くなり。そして消えた。
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