第七話 マイノリティ

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第七話 マイノリティ

   八月十九日(月) 如月颯太  バッテリー切れを起こしたスマホがフル充電になっている事に気が付き、今朝、ふと電源を入れた。  マリちゃんからの何件かの着信履歴が表示された。画面をスクロールした。何件か、いや、何件も、何十件も……。永遠に終わらないかのように、いくらスクロールしても、そこにはただひたすらマリちゃんの着信履歴がループされていた。  メッセージも同様だった。たった一件のリンちゃんからの「昨晩は凄かった。ありがとう」みたいなメールを除いては、全てマリちゃんの「今すぐ会いたい」といった趣旨のメールだった。それで埋め尽くされていた。怖くて返信できなかった。そして迎えた出勤時刻である。  恐る恐る出社した。いつも通りに五分前行動をした。やっぱりB四出口にはマリちゃんはいなくて、出社すると、既に定位置。そう、俺の隣のデスクで仕事をしていた。怖かった。無言の沈黙が続いた。 「如月先輩、書庫の資料、一緒に確認して欲しいものがあるんですが、今お時間よろしいですか?」 奥村さん、つまり、マリちゃんだった。口は微笑んでいた。でも、目が笑っていなかった。 「ああ、奥村さん、それ、ここに持ってきて貰うことってできないかな?」 すると彼女は狂気に満ちた眼差しで真っ直ぐ見つめて言った。 「高いところにあって、私じゃあ取れないんです。如月先輩も一緒に書庫に来て下さい」 もう言い逃れはできなかった。恐る恐るマリちゃんについて行った。  書庫に入るなり、俺は自身の耳を疑った。 「抱いて!」
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