第七話 マイノリティ

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 俺は先日飲み過ぎた海鮮居酒屋の姉妹店が隣駅辺りにオープンした事を知った。地酒の品揃えが本店と少し違うらしい。お盆明けに開店したばっかりだ、グルメの如月もまだ行った事がないだろうし、喜ぶと考えた。しかしアイツの反応は意外だった。 「ここ、オープンしたてなんだってよ!」 俺は精一杯明るく、かつての気力に満ちた剛田健介を演じた。 「ふーん」 「来た事あったか?」 「いや……。」 いつもの嫌みな感じとは違う。そこには精根尽き果てた様子の如月がいた。 「とりあえず酒だ、酒!」 それはまるで俺自身を鼓舞するような言葉でもあった。もうこうなったら、かつては犬猿の仲だった同期ふたり、一緒に酒に逃げてすべて忘れてしまえ、と、そう考えた。  しばらくはただふたり、無言で酒を酌み交わす時が流れた。やはり日本酒は美味かった。どっしりとした旨口の純米酒は、ゆっくりと喉のつかえを流してくれた。 「俺、会社辞めることにした」 それを聞くやいなや、心ここにあらずだった如月が目を丸くして、まるで豆鉄砲を食らった鳩のようにじっと俺を見つめた。当然、経緯の説明が必要だ。スッキリ甘くて軽やかな吟醸酒は、俺自身を饒舌にさせ、今まで悩んでいた事も含めて全てを吐き出させた。 「俺、これ以上皆に迷惑かけられないしさ、女遊びも含めて全部リセットしたいんだよ。だから、会社もリセット。辞めて、新しい人生を生きる」 沈黙が流れた。如月は何も言わず手酌酒をやるので、すかさず俺が注いでやった。 「それって、逃げてるだけなんじゃないか?」
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