第二話 ライバル

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「四月に第三営業部に配属してからずっと思ってたんだけど、如月の出社、いつもギリギリだよな」 「ギリギリではないだろ。五分前にはこうして始業してるんだ」 「そうは言うけどな、電車が遅延したらどうする?」 「地下鉄だからそれはない。大丈夫! 剛田こそ、今日は遅かったけどどうした?」 何となく察しはついていた。強風注意報が出ていた。電車の遅延に違いない。剛田の乗る京葉線は地上の海岸線を走る。風にはめっぽう弱い。そよ風が吹くとすぐに遅れが出る。それに京葉線を使えば東京駅で下車する事になる。日本橋駅からよりも若干会社は遠くなる。その距離を今日、必死に走って来たのだろう。 「……っ、電車の遅延だ」 剛田は悔しさを噛み殺すようにそう言うと、その目線をPCに戻した。  今日は勝った。心の中でガッツポーズだ。そのパイナップルみたいな髪の毛を掴んでデカい頭をPCのキーボードに叩き付けたら、彼は怒るだろうか。飛んでくるのは右ストレートか左フックか……。いずれにしても問題ない。デスクを挟んでいる。かわすのは容易だ。その後、デスクを回り込んで迫る剛田をどうするか。ボコボコに……されるな。  肉弾戦では勝算がない。やはり言葉で責めるしかないな。「お前こそ、通勤の電車、一本早めた方が良いんじゃないか」とか言ってやるか。いや、弱いな。普通過ぎる。もっとこう、無限に広がる宇宙のような可能性を期待させる、凄い事を言わないとつまらない……。 「お前、仕事に集中しろよ」 野太い剛田の声だった。クソ! 妄想に耽った一瞬を突かれた。これで今日は一勝一敗だ。  俺は四年前の試用期間終了後の配属以来、ずっと第三営業部にいる。同期入社ではあるが、この部署での歴は俺の方が長い。剛田はある意味後輩だ。それが最近、何かと俺の行動にケチを付けるようになってきた。彼は入社以来経営企画部に在籍していた事もあってか、何かと合理性を求めてくる。そう、合理性を求めるプロなのだ。そこに、剛田の生真面目で熱血漢な気質が相まって、重箱の隅をつついてくるもんだから始末が悪い。やりにくいったらない。
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