第七話 マイノリティ

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   八月十九日(月) 如月颯太  「よう、如月、今晩、一杯どうだ?」 あの剛田が珍しく俺を誘った。珍しく、というのは正確じゃない。正しくは、初めて、だった。最近はすっかり腑抜けてしまった剛田が、嫌に上機嫌だった。まるでかつての暑苦しい剛田を連想させた。  会社の近くの海鮮居酒屋の姉妹店が隣駅にオープンしたらしい。わざわざそこまで行く必要もないと思ったが、剛田は「本店とは違う地酒を飲める」といった事を主張して聞かなかった。渋々その店について行った。  店内の様子はよく覚えていない。まあ、新しい店舗だ。綺麗で快適だったと思う。 「とりあえず酒だ、酒!」 今日の剛田は嫌に暑苦しい。かつての不快な、気に食わない同期が目の前にいた。普段の俺なら、剛田に嫌みの一言でも言ってやるが、それどころではなかった。マリちゃんとリンちゃんをどうするか、俺の頭の中はそれで一杯だった。 「俺、会社辞めることにした」 何の前触れもなく、剛田が言った。それは困る。俺の仕事が増える。タダでさえ仕事が手につかなくなりそうなのに、その上に剛田の分まで働くなんてあんまりだ! こちらに構わず酒に酔った剛田は続けた。 「俺、これ以上皆に迷惑かけられないしさ、女遊びも含めて全部リセットしたいんだよ。だから、会社もリセット。辞めて、新しい人生を生きる」 ふざけるな! と、心の中で激怒した。あまりに身勝手な物言いにこちらも限界だった。 「それって、逃げてるだけなんじゃないか?」
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