第七話 マイノリティ

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「逃げじゃない!」 「逃げじゃないんだ……。逃げじゃ……」 そこで剛田は黙り込んだ。少しの間を空けて、言葉を選ぶように続けた。 「俺は、俺自身を変える! その為に必要なんだ! そう、全てを捨てる!」 全てを捨てる、その言葉が俺の胸に突き刺さった。 「全てを捨てる? そんな必要あるか?」 マリちゃん、リンちゃん、全てを捨てる……。そんな事、俺にはできっこなかった。 「クソがつくほどに生真面目で、暑苦しいほどに情熱的で、嫌みなほどに合理的な、そんなかつてのお前の良いところ、それも捨てるって言うのか?」 言ってから気が付いたが、俺は剛田を褒めていた。常に俺と対極の位置にいた、憎き剛田……。心の底では、そんなアイツに嫉妬していたのかもしれない。剛田はお猪口に目線を落とした。するとその目から一筋の涙が静かにこぼれた。 「俺、考え直すよ! ありがとう如月!」 すると、感極まった剛田がお座敷の席で立ち上がり、素早く俺の元に近づき、その厚い胸板と逞しい豪腕で俺をキツく抱きしめた。 「俺、今日はもっと酔いたい気分かも……」
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