第七話 マイノリティ

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   八月二十日(火) 如月颯太  スマホのアラームを止めた。見慣れた自宅の天井だ。昨日は飲み過ぎだった。あの後どうやって帰ったのか……。 「ソウちゃん、おっはよ!」 ベッドに横たわる俺の背中に、ごつくて暑苦しいものがふたつ……。それと、その下にこれまた熱く脈動する突起物が触れた。 「えっ、あっ、えっと、その……。おはよう。剛田……」 驚いた……。どころではない。血の気が引いた。ベッドの上で振り返ると、隣には素っ裸の剛田がいるではないか! 「やだー、ソウちゃん、昨日みたいに『ケンちゃん』って呼んで」 そう言うと、ゴツくてぶっとい腕でガッシリと俺の肩周りをホールドし、続けた。 「ねえ、昨日みたいにアタシを乱暴に罵倒して。それで、優しく激しくめちゃくちゃにしてヨ!」 ゾッとした。鳥肌が治まらなかった。コイツはいつからオネエ言葉で「アタシ」なんて言うようになったのだろうか……。 「したいわよネ、五回目」 いやいやいや、罵倒? 優しく? 激しく? 酔っ払った俺はいったい昨日どんなプレイをしたって言うんだ? 「あっ、ごめん、今日はほら、これから会社に行かなくちゃ……」 その危機的状況から脱するには、もうその一言しかなかった。 「それもそうネ。じゃあ仕事が終わったら、また来るわネ」 「いや、ごめん、今夜用事があって……」 「用事ってなーに?」 聞き慣れない口調で発せられた野太い声に、もはや俺は怯えた。 「いやー、実は今夜、両親が来る予定で」 口から出まかせがついて出た。 「じゃあ、ご挨拶しなくちゃ!」 「……?」 かつて「剛田」と名乗った眼前の筋肉ゴリラの思考回路は全くの解読不明だった。 「……なんで挨拶?」 すると、剛田は満面の笑みで言った。 「だって、アタシ達、結婚するんでしょ?」 頭が真っ白になった。本当に、昨晩はいったい何があったのか……? 「いや、それは、どうかな……」 「昨日と話が違うじゃない!」 「そのうち、考えようか……」 「そのうちって、どのうちヨ?」 「えっと、じゃあ、その、一年以内、とか……?」 「えー! 昨日と違うじゃない! でも、アタシ、待つわ!」 剛田、いや、ケンちゃんの筋肉に圧倒されて、とんでもない約束をしてしまった……。
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