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第八話 生きる
八月二十日(火) 如月颯太
剛田、いや、ケンちゃんと出勤した。会社でのケンちゃんは、かつての情熱的で生真面目でちょっぴり合理的な、いけ好かない「剛田」に戻っていた。オネエ言葉も「アタシ」とかいう一人称もなしだ。安心した。
しかし、安心している余裕もない。気が気ではなかった。いつ自宅に乗り込んでくるか分からない狂気の後輩マリちゃん、同棲の約束をしてしまった隠れドMの先輩リンちゃん、そして筋肉隆々の婚約者である同期ケンちゃん……。もう滅茶苦茶だ……。
それら三つのパズルピースが一度でも干渉すれば、きっとそれらは爆発し、その先に待っているのは、そう、地獄……。憂鬱なんてもんじゃない。仕事なんか、手につくはずがなかった。
その日の夕方、いつものように林田部長に見積書の押印依頼をすると、言われた。
「引き合いご苦労さん。ところで如月君、今夜空いてる?」
ああ、有り難い、本当に有り難い。今日この場で部長から飲みに誘われたという事になれば、マリちゃん、リンちゃん、ケンちゃんの三人に「今夜は会えない」という説明がつくというものだ。とりあえず、一晩は首の皮一枚繋がるのだ。
「もちろんです! 飲みに行くんですよね! 是非お願いします!」
三人に聞こえるように、いつもより大きめの声で答えた。
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