第八話 生きる

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   八月二十日(火) 林田政信  管理職は辛い。何とか剛田君を引き留めて退職を阻止できたのが今朝の事だ。そして、今度は如月君が浮かない顔をしている。いや「浮かない」どころではない。まるでこの世の終わりみたいな顔をしている。この前の、四星商事の倒産を事前に見抜けなかった失態を気にしているのだろうか……。  こんな時、その異変をいち早く察知してケアするのも管理職の責務! 長年仕事を共にしてきた仲だ。今夜飲みに誘ってみよう。 「林田部長、見積書を作成しました。ご確認をお願いします」 その日もいつものように如月君は書類を提出してきた。 「引き合いご苦労さん。ところで如月君、今夜空いてる」 「もちろんです! 飲みに行くんですよね! 是非お願いします!」 よかった。いつものように、いや、もしかするといつも以上にキラキラした目で応じてくれるではないか! 今日は募る話もあるだろう。会社の人目を避けて、隣町に新しくできた海鮮居酒屋に行ってみよう。そう思った。  店について知ったが、その居酒屋は会社の前の海鮮居酒屋の姉妹店らしい。むこうとはまた違う地酒のラインナップのようだ。これは良い店を見つけたと、その時はそう思った。 「如月君、この店、初めてだろう?」 「いえ……」 「えっ?」 「昨日来ました……」 「ええー!」 言ってくれれば良かったのに! もう店に入っちゃったし、飲み放題もスタートしちゃったじゃないか! 今日に限っては嫌に控え目だな。やはりここは早速本題か、そう思った。
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