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「如月君、この前の三星化学の件、もう気にしなくて良いんだよ」
すると、彼は驚いたように顔を上げ、私の目を見た。やはり、さすが、この男を四年以上見てきただけある。上司の慧眼ってやつだ。
「お気遣い、ありがとうございます」
それだけ言うと、如月君はまたその視線をお猪口に落とした。そしてポツリ、ポツリと、呟くように語り始めた。
「部長。先週の金曜日、実は部長って凄いなあ、って、関心したんですよ」
モヤッとした。「『実は』部長って凄い」? 「関心した」? いくら気心の知れた如月君とはいえ、やけに上からっぽい物言いじゃないか、と、内心穏やかではなかった。しかし、そんな私をよそに、彼は続けた。
「いつもはあんな感じなのに、なんか凄かったです。安心できると言うか、この人になら身を任せてもいいなって……。その頼りがいと男気に惚れました」
まあ「あんな感じなのに」ってのは引っかかるが、彼なりに私を尊敬してくれている事が分かった。彼の空いたお猪口に大吟醸を注いだ時、その華やかな香りが花開いた時、如月君は静かに大粒の涙をポロポロと流していた。
「部長、もう僕、どうしたら良いのか、分からないんです!」
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