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八月二十日(火) 如月颯太
よりによって。昨日行ったばかりの店に誘われた。ドヤ顔の林田部長を前にして「別の店にしましょう」なんて事を言い出す気力もなく、ついて来てしまった。
「如月君、この前の三星化学の件、もう気にしなくて良いんだよ」
それを言われてハッとした。すっかり忘れていた。せっかく作った顧客リストへのアプローチを失念していたのだ。思えば、あの失態など遠い昔のようだった。あんな小さな事で悩んでいた自分が懐かしい……。
「お気遣い、ありがとうございます」
そうだ、部長にはいろいろとお世話になった。
「部長。先週の金曜日、実は部長って凄いなあ、って、関心したんですよ」
部長には、まだきちんとお礼を言えてなかった。
「いつもはあんな感じなのに、なんか凄かったです。安心できると言うか、この人になら身を任せてもいいなって……。その頼りがいと男気に惚れました」
あの時に一緒に頑張ってくれたリンちゃんが頭をよぎった。俺はいろんな人を裏切って、いったい何をしているのだろうか。大吟醸の甘く切なく華やかな香りがツンと鼻を突いた時、涙のダムは、いとも簡単に決壊した。
「部長、もう僕、どうしたら良いのか、分からないんです!」
そう言うと、俺の手は部長のそれに触れていた。
「僕、今日はもっと酔いたい気分かもしれません……」
あれ、俺、今何言ってるんだろう……。
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