第二話 ライバル

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   七月十日(水) 剛田健介  俺の名前は剛田健介。男。二十六歳。独身。彼女募集中。今年の四月に華の経営企画部から第三営業部に異動してきた。一応硬派で通っている。スポーツは得意だ。その他の得意分野は気合いと根性。あとは情熱だ。何をするにも妥協は許さない。やるからには何にでも本気で向き合う。最近の軟弱な若者は大嫌いだ。というと、オッサン臭いか……。とにかく気合いだ。気合いで人生突き進んできた。  その日はギリギリだった。京葉線は遅延が多い。だから余計に早めに自宅を出発する。それでも、三十分も満員電車で立ち往生する事は想定外だった。  東京駅の京葉線ホームはとんでもないところにある。他のホームとは隔絶された、とんでもない地下深くにあるのだ。駅構内にオートウォーク、つまり段差のないエレベーターみたいな動く歩道が設置されているほどだ。時間がなかった。そのオートウォークを駆け抜け、階段を駆け上がり、八重洲の地下街を走って会社を目指した。走るのは不本意だ。行儀が悪い。しかし、やむを得ない。社会人五年目、これまで無遅刻の記録をここで終わらせる訳にはいかない。  エレベータに駆け込んだ。時計に目をやると、八時五十二分。これからPCを立ち上げて始業準備をすると、だいたい八時五十五分。ギリギリだ。ギリギリだが、何とか間に合った。ホッと胸をなで下ろすと、そこには奥村さんがいた。  通勤で会ったのは初めてだ。これは恥ずかしいところを見せてしまった。しかし、今日の奥村さん、いや、愛しの真里菜たん……。今日も可愛い……。ぱっちりした目に少し丸顔でスキのありそうな、天然でおっとりした雰囲気。社内のゆるふわ女子の最高峰だ。走って上がった心拍数が下がらない。彼氏とか、好きな人とか、いるのかな。  同じ部署なのに、まだあんまり話した事がないな。「俺も今年の四月に異動になったばっかりなんだ。一緒に頑張ろうね」とか、優しく紳士に寄り添ったりしちゃったりして……。  あれ、そう言えば真里菜たんはいつも出社が遅いな。まあ、更衣室で着替えたり靴を履き替えたり、他にもきっと、女の子にはいろいろあるんだろう。ギリギリ出社の常習犯のアイツは別として、真里菜たんは可愛いから許しちゃうな。
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