第二話 ライバル

4/5
前へ
/72ページ
次へ
 驚いた、真里菜たんの隣にアイツ、如月颯太がいるではないか。距離が近い。なんだあの距離感。なんか、ちょっといい感じに肩を並べたりなんかして、けしからん……。  いや、エレベーターの中だ。そんな事もあるさ。落ち着け剛田健介……。しかし腹立たしい、その穢らわしい体で神聖な真里菜たんに近づくな。畜生!  そう、如月颯太。ギリギリ出社の常習犯。それでいて遅刻しないのがまた憎たらしい。経営企画から第三営業部に異動して三ヶ月。コイツのいい加減ぶりには辟易しているところだ。  インテリっぽい見た目をして、仕事は上手い具合に手を抜く。午前中の外回りでは商談の一時間も前にカフェで時間を潰して、取引先では呑気な世間話に花を咲かせ、ファミレスのランチはドリンクバー付き。しっかりと昼休憩をとって、何食わぬ顔で夕方頃にひょっこり事務所に戻ってきたりするのだ。  配属当初は経験の為という名目でそんな外回りに付き合わされたが、もうやっていられない。全く合理的ではないし、何より、情熱、そう、パッションが足りない。足で稼ぐ。その泥臭い手法は嫌いではない、いや、それこそがこの味気ない業界に必要な事だとも思う。しかし、自社商材を販売したいという熱い想い、それが決定的に不足している。  最近は俺も営業の事が分かってきた。これからは少しずつ自分の情熱を信じて営業活動をして、結果を出してみせる。そして、如月よりもこの俺、剛田健介の方が仕事ができる事を愛しの真里菜たんに分かってもらうのだ。  おっと、真里菜たんが更衣室から出てきた。ここはビシッと如月に言ってやろう。 「今日ばっかりは人の事言えないけどよ……」 一応予防線だ、如月のヤツ、口だけは達者だからな。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加