ラストワン

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 五分程経ったろうか。いくらか年上っぽい若いお兄さんがやってきて、棚を横目にしてからクジを買っていった。僕はやった!と喜んだ。これでラストワン賞は僕のものだと意気込んだのだ。だが、その希望はあっと言う間に消え去った。そのお客さんはクジを二回買ったようで、残りの景品を全て持っていったからである。アッと思わず声が出てしまう。そのお兄さんはどこか嬉しそうに店内から出ていった。僕は少し呆然としてしまったが、慌ててその人の後を追った。自転車で来ていたようで、その後ろ姿は消えようとしていた。僕は生まれて初めてかもしれない速度で全力疾走をしてお兄さんを追った。なんとか背中を見失わない様に息もきついくらい耐えて走っているとお兄さんは信号に引っ掛かって止まっていた。僕はようやく一息を入れると、トコトコお兄さんに近づき、思い切って話しかけた。 「あの、すみません」 「ん?」  お兄さんは誰だコイツ?みたいな顔をしている。年下の見知らぬ小学生にいきなり話しかけられれば戸惑うのも無理はないかもしれない。 「なんか用?」 「はい、あの……」  僕はたどたどしくも用件を伝えた。こちらもお金を出してクジを買っていたこと、でも途中でお金が無くなって困っていたこと、そこに現れたお兄さんが残りを買っていってしまったこと、どうしてもそれが欲しいこと。全てを話した。お兄さんはウンウンと首を振りながら聞いてくれた。そしてこちらの話が終わると、少し間をおいてから話し出した。 「君の話は大体分かったけど、当たり前だけど俺もこれ欲しくてさ。流石にあげられないんだよね」  お兄さんはすまなさそうにそう言った。 「で、でも、それ女の子用ですよ。お兄さんにはその、あまり似合ってないっいうかその……」  つい恨みっぽいことを言ってしまって口を閉ざした。あまりの悔しさに涙が出てきた。それを見てお兄さんは少し慌てたようだった。 「おい、泣くなよ。困ったなぁ」  うーんとお兄さんは声を漏らしている。どの程度そのままいたのか覚えていないけど、やがてお兄さんは根負けしたようにこう言った。 「分かった分かった。これは譲るよ。その代わりお金はもらうぞ」 「ほ、ほんと!?」  僕は鼻水と涙でびしょびしょになった顔を上げて、大声を上げた。 「あぁいいよ。まぁ仕方ないかなぁ。あいつには我慢してもらうか」  お兄さんは何事か独り言を言っていたが、僕はそれどころでなく、全く聞いていなかった。大喜びでお兄さんにお金を渡すと、ちょっと考えてから持っていた袋も渡した。 「あの、これお礼です。受け取って下さい」 「なんだこれ」 「あのクジの景品です。僕にはこれだけあればいいので」  お兄さんは少し考えていたようだが、やがて笑顔でそれを受け取ると、手を振って去っていった。僕はその姿が消えるまで手を振り続けた。
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