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拙いながら、言葉数が増えていく次男を私達は微笑ましい気持ちで見守っていた。
それから何度も何度も、AくんBくんの家に遊びにいく長男と次男。次男が山がある、と言ったのはあの日だけだったので、私もあっさりその件を忘却したのだった。
が、それから一か月くらい過ぎた時だ。
「まま、あのね」
その日。家に帰ってきた次男は、明らかにしょんぼりした顔をしていた。
「あのね、おやまは、さわったらだめなんだって。ぼく、だめっておこられた……」
どういうことかと尋ねると、長男は困惑したように首を振ったのだった。
「俺もどういうことかさっぱり。……また、いつものように奥の部屋で遊んでたみたいなんだけど、廊下でこいつとBくんがおばさんに怒られててさ。なんか、触っちゃいけないものを触ろうとしたから駄目だったらしいんだけど」
「触っちゃいけないものって?」
「ちょっとBくんのおばさんの剣幕が怖かったから、何かあったんですかって尋ねたんだけど。おばさん、俺には教えてくれないんだ。Aもはぐらかすしさ。で、コイツに何を触ろうとしたんだって尋ねたら……」
「おやま!おやま、さわろうとしただけ!でも、だめだっていわれた!」
「……これなんだよなあ」
まったく話が見えない。
ただ、私は少しだけ嫌な予感を感じつつあったのだった。どうやら、次男が言っている“山”というのは、遠くに見える景色のようなものではないらしい。多分、絵本の写真やイラストの山でもない。
その気になれば、保育園児が触れるようなもの。ということは、高い場所にあるものではないはずだ。
そして、触れるけれど、触ってはいけないと言われるようなものだった、と。ならば山というのは、景観や自然の山とは別の、何か比喩なのではないか。
そして、保育園児の次男にはまだそれを山としか表現できないのではないか。
――でも、妙ね。……そんな子供に触らせちゃいけないものがあるなら、さっさと移動させればいいのに。玩具とか宝物なら、高い場所に移動させるとか、別の部屋に運べばいいだけよね?
ひょっとして、と私は気づいた。
もしかして、その家にはゴミやがらくたを押し込んでいる倉庫でもあるのではないか、と。
私は、Aくん宅に一度も行ったことがないので、その家の構造はよくわかっていない。ただ広くて、3LDKよりも部屋があるらしい、とぼんやり聞いているだけだ。
もしかしたら。奥の部屋の一つを物置小屋にしてしまっていて、ゴミやがらくたを山のように積み上げてしまっているのではないか。それを、次男は山と称しているのではないか。
もしそうなら、“山”の位置は簡単に動かせない。危ないから触るな!とおばさんが怒るのもわからない話ではないだろう。
「それって、どういう山なの?大きな山?ちいくんたちより大きい?」
ちいくん、というのは次男の名前だ。
私はてっきり、彼が頷くとばかり思っていた。ところが次男は、ううん、と首を振ったのである。
「ちっちゃい。ちいくんより、ずっとちっちゃい、おやま!」
なんじゃそりゃ。
私は長男と顔を見合わせたのだった。
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