やまがある。

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 ***  山、の正体がわかるのはそれから暫く後のことだった。  ある日、私が家に帰ると、どこか青い顔をした長男と涙のあとを晒した次男がしょんぼりとリビングに座っていたのである。  確かに、長男は家の鍵を渡してあるし、私が帰宅するより前に家に帰ることは可能だ。だが、今日はいつも通りAくんの家に遊びに行くと言っていたのに。 「あ、お帰りなさい、母さん。えっと、その……」  長男の顔色が悪い。何かがあったのは明らかだった。私が“どうしたの?”と尋ねるより先に、次男が私の足に飛びついてくる。 「まま、おかたづけは、だいじだよね?おかたづけ、しないと、おこるよね?」 「ん、ん?」 「おかたづけ、しただけ!ぼく、おかたづけしたのお!」  何がなんだかわからない。困惑する私に、長男が説明してくれた。 「あのさ。今日もいつもの部屋で、ちいくん遊んでたみたいなんだよ、友達と。で、部屋をかなり散らかしちゃったみたいでさ。母さんが教えてる通り、ちゃんと片付けようとしたわけね」 「うん、それはいいことよね」 「で、その時、“山”を崩しちゃったらしくて。散らばっちゃったから、それも掃除機で吸っちゃったみたいなんだ。Bくんが使い方わかってたから、教えてもらったんだって。そしたら……おばさんがかんかんに怒って」  掃除機を壊したわけじゃないんだ、と長男は続ける。 「なんてことしてくれたの、出てきちゃったらどうすんの!って。……もうすげえ剣幕で。俺、わけわかんなくて奥の部屋に飛び込んだんだ。で、そこで初めて知ったんだよ。あいつらが遊んでた子供部屋の奥にな……もう一つ、部屋あったの。それで……白い粉が散らばってんのを」  白い粉。  どういうことかわからず困惑する私に、長男は。 「子供部屋の……奥にあるドアの前に、でかい盛り塩がされたみたいなんだ。こいつずっと、それを“山”って呼んでたんだよ。Aが言ってた。あれは、母親だけの秘密の部屋で、他の家族は全員入っちゃいけないことになってた、って」  盛り塩。  それが、魔除けや結界のために使われることがあるくらい、私でも知っている。だが、普通は玄関の前などに置くものではないか。何故室内に、部屋の前に、大きいと称されるほど塩を盛る必要があるのか。  それはまるで、奥の部屋にあるものが“出てこられないように”しているかのようではないか。 ――一体、そこに、何があったっていうの?  結局。答えはわからない。確かなことは一つである。  私はその翌日にはもう、AくんとBくんの名前も、そのマンションの住所も、連絡先も何もかも思い出せなくなっていたということだ。長らく一緒に遊んでいた長男と次男も動揺に。中学校と保育園のクラスからも、当たり前に二人の名前が消えていた。みんなも、そんな子は最初からいなかったというのだ。  彼等は、一体何に食われてしまったというのか。  それとも、最初から人ではなかったとでもいうのか。  真相は、未だ闇の中である。
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