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<桜井side>
握りしめていた三森さんのネームを改めて見直すと、、本当に親近感が湧いた。
あの日僕は、通りがかった公園で、三森さんが真剣に親と電話して、猫を引き取ろうとしているのを偶然見かけた。
結局拾って帰る許可はもらえなかったみたいで、彼女がしょんぼりとして立ち去った後、雨が降ってきた。
僕はあの猫を、連れて帰らずにはいられなかった。
その小さな体を抱き上げると、猫自体もかわいいけれど、猫に触れることで、三森さんの人柄に触れたような気がした。
三森さんのネームは、実にあの日の出来事にそっくりだ。
違うのは、ヒロインではなく、男キャラにあたる僕のほうが三森さんに心惹かれてしまっているところくらいだ。
まさか三森さんが、僕が雨の中猫を拾って帰るところを目撃しているわけはあるまい。
実際、猫の話を出しても初耳みたいだったし。
僕は部室から出た。
昇降口に向かう。
するとその途中で、あの日公園を後にした時のように寂しそうに肩を落として廊下を歩く、三森さんの後ろ姿が見えた。
あの日に抱いた憧憬よりも遥かに強い感情が、いきなり込み上げる。
胸が熱くなり、僕は思わず、三森さんの名前を呼んだ。
彼女が振り向いた。そして、
「はあ!? なんで!?」と三森さんは叫ぶ。
「なんでって、ここは僕の学校で、ここは昇降口に続く廊下であって」
「そんなこと言ってんじゃねえよ、ああもう嘘だろ、なんで今なんだよ! 今じゃないだろー! もう完全に油断状態なんだぞ、あたしは!」
なにかにひどく腹を立てているのか、三森さんの顔は、またしても真っ赤だった。
しまったな。嫌われてしまったかもしれない。
僕は三森さんが大好きなのに。
三森さんに向かって歩を進める。
ほかの行動は、もうなにも取れなかった。
すぐ目の前まで来ると、三森さんは顔を赤くしたまま、目に涙をにじませていた。
「三森さん、」
「桜井、」
次に僕らが口にした言葉は、不思議なことに、全く同じ三文字だった。
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<三森side>
!!!!????
……!!!
!!!!!!!!!!!!!
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♡
終
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