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「ああ驚いた。君、神社の子かい?」
目の前に現れた、十歳くらいの男の子を呆然と見つめる。瞳の奥に星の光を宿したような、はっと胸を突かれるほど美しい男の子だった。涼し気な紗の狩衣に、髪を角髪に結い、まるで平安絵巻から抜け出したような姿をしている。
「びっくりさせてごめんやで。お兄ちゃん、それ、僕に見せてくれへん?」
子供にそぐわぬ高貴な佇まいに思わず跪こうとして、はっと我に返る。
「ああ、これね。どうぞ」
男が手を広げると、鶉卵ほどの白い勾玉が、濡れたように光った。
「あれ、いつの間にこんな山の中に?」
周囲をきょろきょろと見回す。
「考え事をしながら歩いていると、よく迷子になるんだ」
「お兄ちゃん、これどうしたん?」
男の子が勾玉を見つめ尋ねる。
「参道の、鳩サブレを売る店の前に落ちてたんだ。拾ってみると、生き物みたいに温かくてね」
勾玉を愛し気に撫でさする。
「なんだか僕の悩みを聞いてくれる気がして、話しかけてた」
照れくさそうに頭を掻く。
「お兄ちゃんの悩みって何なん?」
「研究のこととか、色々さ。実はあまり芳しい成果を出せていないんだ。大学の研究費は減らされるし、両親は研究なんかやめて実家を継げととうるさいし、何より、研究をやめたら何のために頑張って来たのか、何のために生きているのか分からないと……。ごめん、君に言っても分からないよね」
男の手のひらで、勾玉が優しく光る。
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