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「お兄ちゃん、その勾玉、どうするん?」
男は暫く考えてから答えた。
「何の成分でできているのか、持って帰って調べるつもりだ」
「ふーん、そうなん」
「うん、そうだよ」
男の子に見つめられ、男は恥ずかしそうに俯いた。本当はただ自分のものにしたいだけなのだ。
「ね、お兄ちゃん、それ僕にくれへん? 代わりにこれあげるし」
男の子が二本の指を立て、ふっと息を吹きかけると、タンポポの綿毛のような光が無数に現れて男の周囲をフワフワと飛び交った。
「うわぁ! なんだこの光の散乱現象は!」
眼鏡を外して目を擦る。何度瞬きしても、光は消えないでいる。
「この子ら、スマイルっていうねん。自分のためには使われへんやつやけど。お兄ちゃんの研究って、沢山の病気の子供を助けるのに役立つんやろ? そやったら、喜んで手伝いすると思うわ」
「分かった。勾玉ちゃんと別れるのは辛いけど。これは君に上げるよ」
「おおきに、ありがとう」
勾玉を受け取ると、男の子は惚れ惚れするような笑みを零した。
「そういえば、どうして君は僕の研究を知ってるんだい?」
男の疑問に応えるものはなかった。
瞬きの間に、男の子の姿は消えていた。
「不思議だ。どんどん勇気が湧いてきたぞ。そうか、たった一人で頑張ってるつもりだったけど、そうじゃなかったんだ。よーし、誰が何と言おうと、絶対に諦めるもんか! 帰ってすぐに研究だ!」
肩や頭の上にスマイルを載せ、走り去ってゆく後姿を、白うさぎが耳の後ろを掻きながら見送る。
「そないきばらんでええよ。人間て、自分勝手に歩いてるだけのようで、意外と誰かの役に立ってるんやで」
おわり
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