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「しかし郎子命様、夏くらいは本来のお姿でお過ごしになっては? ハクトなど、毛皮を脱ぎたくても脱げませんゆえ、羨ましゅうございます」
「えー、だってこの方が楽やねんもん」
後ろ足で耳の後ろを掻く。
「みんなも、愛らしぃ言うてくれるし」
長い耳を両の前足で挟み、梳るように何度も撫でつけた。そんな主に吐息を一つ、ハクトも真っ白な毛に覆われた前足で、髭の周りを撫で始める。
「今日も忙しくなりそうでございますねぇ」
朝の毛繕いに余念がないところへ、コロコロと転がって来たものがある。
「郎子命様、お寛ぎのところ失礼いたします」
左右に松葉のような髭を生やした毛玉が、神坐の前でぴたりと平伏する。
「なんや茶々丸。もう参拝の者が来たんか?」
茶々丸の背後には、発光するタンポポの綿毛のようなスマイルが、何やら慌てた様子でフワフワ浮かんでいる。茶々丸はスマイルたちを統べる親玉である。
「はっ! 恐れながら、石清水八幡宮様の鳩が、お目通りを願ってやって来ております」
「こんな朝早うにか? 何の用やろ。まぁええから、通したり」
「ははっ!」
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