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茶々丸が下がると、ハクトが大慌てで御簾を下ろした。神がうさぎの格好をしているなど、誰にも知られてはならないからである。
間もなく、二羽の白い鳩が茶々丸に続いて御前に舞い降りた。羽をついて平伏する。
「石清水の鳩さんら、おはようさん」
御簾の奥からの声に、二羽は思わず喉声をもらし、「懸けまくも畏き莵道稚郎子命様より、直々にお声掛けいただくとは。勿体のうございます」と嘴を床に擦り付けた。
そして「つまらないものですが」と側にかしづくハクトに五色豆を差し出す。
「そない固うならんでええよ。気楽にな。で、今日はどないしたん?」
「実は我が一族の一大事が発生いたしまして、恥を忍んで申し上げますが、どうかこのことは内々に収めて頂きたく……」
「ふむ、なんや事情があるみたいやな。詳しく話してくれるか」
八兵衛鳩が涙ながらに語った話はこうである。
息子の八作は石清水八幡様より預かった書状を持ち、昨日の朝早く鶴岡八幡宮へ向けて飛び立った。書状を届け、返事を頂いて戻るという重要なお役目であった。しかし、昨日中に帰京するはずが、今朝になっても姿がないと言う。
「鶴岡八幡宮いうたら、鎌倉やろ? そんな遠いとこ、休み休み飛んだとして少なくとも三日はかかるやろ」
その言葉に、八兵衛が鳩胸を反らす。
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