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表で待つよう言いつけ、二羽が出て行くと、大きな白うさぎが御簾を捲っていそいそと姿を現した。
「ハクトや、すぐに旅の支度や」
「わたくしは特に何も持たずとも。首尾よく八作が見つかれば、日帰りで済みましょうし」
「何言うとんねん。行くのはわしや」
「は? それは、一体どういう……」
鏡に向かって髭を撫でつけている主の背中に、戸惑いの目を向ける。
「まさか……。郎子命さま、嘘を仰ったので?」
「おおん?」
振り向いた主の視線に毛を逆立てながらも、踏み止まって言い募る。
「神ともあろうお方が、鎌倉に行きたいあまり嘘をつき、またもや皆を欺こうとなさるとは。ハクトは、情けのうございます」
みるみる目を真っ赤にして、涙を零す。
「またもやってなんやねん。人聞きの悪い」
ハクトが少し哀れになったのか、優しい声になり、言い聞かせるように言う。
「あのな、ハクト。空を旅するいうんは、あらゆる危険が付きもんやねんで。嵐や雷に遭って墜落するかも知れん。お日さんが近いから、毛皮が焦げてしまうかも知れへん。鷲や鷹かて、我が物顔でわっさわさ飛んどるわ」
鷲や鷹と聞き、ハクトの髭がギザギザと震える。
「わしが可愛いお前さんを、そんな危険に晒すと思とんのか? え? わしは、お前さんの代わりに行ったるんやで。鳩さんの頼み、断るわけにはいかへんやろ? しゃーなしやで」
「郎子命様! そのような深いお心とはつゆ知らず」
自分の頭をポカスカ叩く。
「愚かなハクトを、どうかお許しくださいませ!」
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