もう一度、Smile! あげぃん

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「分かったらええ。早よ支度を頼むわ」  その時、風に乗って得も言われぬよい香りが漂ってきた。 「あ、極楽の香りや。飛鳥ちゃん来はったわ」 「な、なんと、天女様!」  本殿の外から、仰天した八兵衛が羽をバタつかせる音がする。 「ほな、留守番頼んだで」  ハクトが用意した包みを背中に括りつけ、とろりと耳を垂らして走り出た。 「姉さん、今日は急なお願いを聞いてくれはって、おおきに、ありがとさんどす」 「懸けまくも畏き莵道稚郎子命様たってのお頼みですもの。石清水の鳩さん、あい心得ております。坂東までご一緒いたしますわね。あらハクトちゃん、お目をどうかしまして?」 「ぼく、姉さんが眩しすぎて真っすぐ見られへんの。お天道様も恥ずかしがって雲間に隠れはったわ」 「まあ、ハクトちゃんたら。相変わらずお上手ね」 「うわぁ、早そうな雲! ぼく、下界に落っこちてしまわへん?」 「大丈夫よ。私が抱っこしてあげますからね。さ、いらっしゃい」  話し声が止むと、ハクトは一人表に出た。八兵衛と桃色の雲はすでに空の彼方にある。 「嬉しそうでしたよねぇ」  タ、タン! と後ろ足で床を踏み鳴らす。 「八作探しは言い訳で、ほんとは鎌倉に行きたいだけですよねーー!」  ハクトの叫びは、地上でのひと夏を謳歌する蝉の大合唱によって、虚しく掻き消された。
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