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「鶴岡八幡宮が見えてまいりましたぞ」
先頭を飛んでいた八兵衛が喉笛を鳴らして知らせると、天女とハクトに成りすました神は、下界を見下ろして感嘆の声をあげた。
「おっきな鳥居に立派な社殿、これが音に聞く鶴岡八幡さんですか」
「門前町の繁盛ぶりを見てごらんなさい。人の頭が黒い川のよう」
「こら、うまいことやっとる、いえ、やってはりますねぇ」
一行は鳥居の上に降り立つと、言葉を失ったまま畏怖堂々たる境内や、土産物を売る店で賑わう通りを見渡した。束の間、天女と白うさぎの胸に、石清水八幡宮の寂れた門前町の風景が浮かんで、消えた。
「岩清水さんはお山全体が御社ですものね。神さびたよい神社ですわ、オホホホ……」
「ほら、ケーブルカー言いますのん? 最近、新しなりましたやん」
ねぇねー、と頷き交わす。
「うちは国宝に指定されてますし、徒然草にも取り上げてもらっとります」
哀愁を帯びた八兵衛の喉声が途切れる。
「世界遺産の平等院さんと宇治上神社さんの前では、お恥ずかしい限りですが」
「平等院さんはともかく、うちはただ古いだけどす」
オホホ、アハハ、アハ……と笑い声が小さくなってゆく。
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