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「なあ、あげぃんって何なん?」
宇治上神社の古びた格子より差し込んだ朝日が、神殿の床に碁盤柄のくっきりとした影を描き出している。褥に起き上がった大きい方の白うさぎがあくびを一つ、モフモフした前足で腹を掻きながら尋ねた。
「確か、もう一遍という意味であったかと……」
朝茶の支度をしながら、小さい方の白うさぎ、ハクトが答える。
「はぁ? ほんなら、もう一度スマイル、もう一遍ってか? アホな題名付けてからに、音和堂もこの暑さでやられてしもとんな」
薄っぺらな冊子を放り投げ、鼻をうごめかせる。
「お、今日は冷やした番茶か」
「煎茶もよろしいですが、やはり夏には、これが一番かと」
「ほんま、この郷愁を誘う燻香がええなぁ」
茶をすすり、好物の茶団子に手を伸ばす。
「今日は串に刺さってるやつか。奥ゆかしい甘さに爽やかな抹茶の香り。深い緑も涼しげでよろし。いつ食べても美味しいわぁ」
前歯を立て団子を引き抜くと、三ツ口をもぐもぐさせながら言う。
「にしても、音和堂はネタ切れなんか。本篇も読んでもらおいう魂胆が見え透いとるやないかぃ。だいだい、わしみたいな真面目な神を、面白おかしく書きよって。けしからん」
「お礼参りにも来たことですし、大目に見てやってもよろしいではないですか」
主に団扇で風を送りつつ、ハクトがまったりと応じる。本殿を屏風のように取り囲む大吉山から、蝉時雨が降り注ぐ
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