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ここカルディナ王国に伯爵家の長女として生まれたプリムローズは、母を知らない。
出産の際、大変な難産で子宮から大量出血し、母は己の命と引き換えに自分を生んでくれた。
プリムローズは、そのことを忘れた日は一日たりともない。
毎晩母に祈りと感謝を捧げ、母に恥じないように命を大切に懸命に生きると誓っていた。
一方で、愛する妻を失くした父は、赤ん坊のプリムローズを抱えて涙に暮れたらしい。
悲しみを埋めるように新たな女性を妻に迎え、やがて生まれてきたのがエステルだった。
物心ついた時から、プリムローズは「あなたは私の娘ではない。この家の令嬢はエステルだけ」と後妻である母に言われてきた。
エステルもその言葉を理解する年齢になると、母にならってプリムローズを卑下するような態度を取り始める。
だがプリムローズは静かに二人の気持ちを受け止めていた。
(きっとお母様は、お父様の心がまだ亡くなった私の母に向いていると、寂しく感じられているんだわ。エステルも、そんなお母様の気持ちに寄り添っているだけ)
父はそんな三人の微妙な関係には気づいていないようだ。
プリムローズにもエステルにも、変わらない態度で接してくれる。
今夜も、「お前もそろそろ年頃だろう」と、プリムローズに舞踏会に行くようにドレスをあつらえてくれていた。
エステルが「私も行きたい!」と言っても、父は「まずは姉のプリムローズの縁談が先だ」とエステルの言葉をいつも聞き流す。
それがプリムローズは気がかりだった。
(お母様も、早くエステルを舞踏会に行かせてやりたいと思っていらっしゃるし。私の縁談が決まるのを待っていたら、いつまで経ってもエステルは舞踏会に行けないわ。お父様がどなたか私のお相手を決めてくださればいいのに)
結婚は家の為とプリムローズは考えていたが、父はどうやら愛する人と結ばれて欲しいと思っているらしい。
(それだけお父様は愛し合って結婚されたってことよね)
自分はそんな両親の間に生まれたのだと思うだけで、充分プリムローズは幸せだった。
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