王太子同士

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パッカパッカとまるで子どものお馬のおけいこのように、一行はのんびり進む。 緊張感のかけらもない雰囲気で、一定のリズムに揺られながら、思わずマルクスは馬の上で居眠りしそうになった。 (はっ、いかん) 慌てて頭を振ると、跨っている愛馬のアンディがチラリとマルクスを振り返った。 マルクスは苦笑いしながら、ポンポンと首筋を軽く叩いて話しかける。 「悪いな、アンディ。明日は思い切り走らせてやるからな」 アンディはブルルと首を振ってから、また前を向いて大人しくゆったり走る。 予想通り、陽が傾き始めた頃に、ようやく一行はカルディナとシルベーヌの国境付近に到着した。 「殿下、こちらです」 随分先に到着していたらしいサミュエルは、国境の警備隊長や部隊長を集め、詰所で大きな地図を広げて待っていた。 既にひと通り説明も済ませてくれたらしく、地図には赤い印がいくつも書き加えられている。 「遅くなってすまなかった。サミュエルから既に聞いたと思うが、今後ギルガのシルベーヌ侵略を阻止する為、国境付近の警備を強化する。具体的には、この赤い印の地点だ。警備隊長、配置する部隊を選出してすぐにでも移動を開始してくれ」 「かしこまりました。その分、他の地点が手薄になってしまいますが?」 「明日から宮殿の近衛隊の部隊を何隊かここに派遣する。最低限必要な人数を見繕ってくれ」 「ただちに」 そしてマルクスは、宮殿からカルロスを警備しながらついてきた近衛隊の隊長を振り返る。 「ここの現場の様子をよく見ておいてくれ。その上でここに配置する近衛隊の部隊を選出して欲しい」 「ですが、近衛隊はこういった戦いの最前線は慣れておりません。皆、尻込みして嫌がるかと…」 「すぐには戦力にならなくとも良い。今ここにいる国境警備隊も、最初はみんなそうだった。少しずつ彼らにならって動けるようになってくれればいい」 「はあ…」 気の抜けた返事をする近衛隊長に、国境警備隊の隊長がため息をつく。 マルクスはさりげなくその肩を叩いた。 「すまないが、初めのうちは辛抱してくれ。私もできるだけ毎日顔を出すようにする」 「マルクス様がそこまでなさらなくとも…。分かりました、わたくしにお任せください。なーに、ビシビシ鍛えてあっという間に先鋭部隊に仕上げてみせますとも」 「それは頼もしいな。よろしく」 互いに頷き合うと、マルクスは詰所を出てシルベーヌの国境へと向かう。 今やすっかり顔馴染になったシルベーヌ国の警備隊長が近づいて来た。 「マルクス様」 「しっ!木陰へ」 「はい」 二人で、人目につかない大きな木の陰に隠れる。 「明日から我がカルディナ王国の国境警備を強化する。ギルガ王国がそちらに仕掛けてきたらのろしを上げてくれ。すぐに我々が応戦する」 「なんと!よろしいのですか?」 「ああ。堅苦しい話はまた後日、国王同士でやってもらおう。まずは現場からだ」 「かしこまりました。どうぞよろしくお願いいたします」 話を手短に終えると、マルクスは隊長と握手を交わしてから踵を返した。
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