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7.裏側
「で? 不倫カップルのことはどうするって?」
「あー……まあ、完全に別れさせておいてくれる? 縁切りさんならちょちょいでしょ」
白い袴を裁き、竹箒で掃除をしながら彼が言うと、風の中から、ふふ、と声が返ってきた。
「まあ、よかったね。あの子があのまま闇堕ちして人の死を願ってたら、この神社は廃社。あんたも異動になって僻地送りだったんだし」
「本当にね。無作為に選んだ参拝客の動向を基準に、神同志で査定し合うってこの仕組み、どうにかならないかね、ほんと」
肩をすくめた彼に声はまたも笑う。
「来年はうちだから。その際はお手柔らかにね」
じゃあね、と挨拶だけを残し気配が消える。やれやれ、と息を吐き、彼は再び箒を動かし始める。と、弾けるような声が石段の下から聞こえ、彼は手を止めた。
男子中学生がふたり、笑いながら石段を駆けあがってくるのが見えた。
「なあ、海斗、今日もお参りすんの? 遅刻するぞ!」
「する! しないと給食のおかずがひじきになったりするから!」
「なんだそれ」
「給食のおかずまでは変えてないって」
顔をしかめて彼は否定してみせる。が、彼の前を通り過ぎていく少年たちにその声は聞こえていない。そしてその姿もまた、彼らには見えていないだろうことを彼は知っている。
少し寂しくはある。けれども自分には彼らの心の声が聞こえる。まあそれで充分だ。
さてさて、今日はどんな話を聞かせてくれるのだろうか。
うっすらと微笑みながら、彼は竹箒を小脇に抱え、少年たちの後ろに立って歩きだした。
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