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俺は1人山の中を彷徨ってたんだ。
何があって一人で山の中にいたのか、迷子になっていたのかはよく覚えていない。
ただ、辺りは真っ暗だった。
まだ幼かった俺にとって夜の山は怖くて……声を殺して泣いてた。
木も、草も、枝も、鳥の声も、目の前の黒に染まった神社も……夏だったのか蝉の声も聞こえてたな。
全てが敵に見えて蹲ってたんだ。
恐怖で動けなかった。
その時に……ある女の子が話しかけてくれたんだ。
「どうしたの?」ってさ。
まぁ、中高生くらいの女の子だったから、当時の俺からしたら大人に見えてたけどな。
「暗くて……怖くって……」
まだ幼い俺はまともに現状を言葉にすることができなかった。
「……ねぇ、見て」
女の子は腰を下ろして目の前に手を持ってきた。
その子の手の中で火が散ってた。
いや、比喩表現じゃない。
本当に火があったんだ。
赤、青、黄、紫、緑……いろんな色の火があった。
女の子の手のひらの上で火の花が踊ってるように見えた。
「綺麗でしょ?」
そう言って女の子は自慢げに笑った。
俺は泣くのも忘れて見惚れていたよ。
暗闇に閉ざされた世界はその子の笑顔と光で照らされていた。
「どうやったの?」
「う〜ん……気づけば出るようになってた!」
「……よくわかんない……でも、きれ〜い!」
そんな会話をしていたら恐怖なんて無くなってたな。
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