火花の娘

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あれから毎日その女の子がいる山に行くようになった。 もちろん、目的はその女の子だ。 その子と話しているとなんだか……心が和むというか……とにかく、安心するんだ。 始めはこの気持ちが恋だと気付けなかった。 女の子もうざがっている様子はなくて、遊び相手になってくれた。 ただ、その子は黒焦げた祠のある洞窟から一切出ようとしないんだ。 お前も行ったことある山だからな? ほら、駅前の。犬の散歩に行く人がよく使う山だよ。 あそこの洞窟。 俺を助けてくれたときには出て来てくれたから、出るには出れるんだろうけど、なぜか出たがらない。 がどうとか言ってた気がしなくもないな……。 あやふやだけどさ。 で、俺はよく洞窟の中でその火を見せてもらってたんだ。 洞窟の中は湿ってたけど、その子の手のひらから出る光は絶えることがなくってさ。 不思議だったよ。 放っておけばすぐに消えちゃいそうに、脆くて小さな火に見えたのに。 何があっても、消えたくない。 そんな意志が伝わってきてさ。 その女の子とはいろいろな話をした。 学校のこと。友人のこと。家族のこと。……全部、あの子は楽しそうに聞いてくれてたから。 でも……あの子、自分のことはちゃんと話してくれたことなかったな。 「お姉ちゃんの通ってる学校ってどこなの?」 「……わからないの」 「……?……友達はどんな子?」 「……どんな子だったっけ?」 「家族は?」 「………忘れちゃったな……」 「……」 そんな感じで、気まずくなるたびに 「ごめんね」って言ってくるんだ。 それが悲しかったし、辛かったかな。 あ、でも、趣味を聞いたときはたくさん話してくれた。 「じゃあ、お姉ちゃんの趣味は何?」 「火を見ること!」 「火を見る?」 「そうそう!火って、同じ形が二度と現れなくて面白いの!一瞬一瞬がかけがえのないものって感じがして楽しいよ!」 「そうなんだ!じゃあ、お姉ちゃんが手から出す火も、おんなじものは二度と現れないってことか!お姉ちゃんだけが作れる特別な火なんだね!!」 火について話すときのあの子の目は……あの子が生み出す火と同等か、それ以上に煌めいていたよ。 その時、きれいだなって思って気付いた。 これはきっと、恋なんだって。
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