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サニアさんな視点
私が五年間捕えられていた場所は、聖女の後見をしていた侯爵の領地だった。
その地は王国の最北端にあり、冬には海が凍ってしまうからと住人もいない場所である。
だからか、イアンは私と一緒に住む家を用意するにあたり、青い海が広がる常夏の島を買い取ってしまった。
だがそれもたった一か月間の生活で、今は王国内の海のない山岳地帯と呼べる領地の城に住んでいる。
一ヶ月で南の島生活が終わったのは、それは私のせいだ。
私が、私はきれいな海も好きだし魚料理も好きだけど、お肉も雪も好きよ? なんて言ってしまい、隣国に隣接していた辺境に勝手に城を建ててしまったのだ。
私はイアンに対して恋心を押さえて余計な事を言わなかった過去があるが、余計な事をイアンに言わないの部分はこれからも続けた方が良いと実感している。
なんだろう、ボールを投げなくても勝手にとってこいしてくる犬みたいだ。
あるいは、頼んでもいない戦利品を持ってくる猫とか?
でもってとって来るのがボールなんて無問題なものじゃなくて、侯爵領だった小島だったり、野盗の根城だった城だったりと、問題すぎる戦利品ばかり。
「大丈夫だよ、死体を残して君の世界を汚すなんて野暮なことはしないよ」
待って!!
私はイアンの愛の深さに毎日ガクガクブルブルと震えるしかない。
でも、今住む城をイアンが占拠してくれたおかげで安全に暮らせるようになったと周辺の町や村から感謝ばっかりだから、彼は私を建前に善行しているだけのような気がする。
彼はとっても優しい人だもの。
そう考えると私を幽閉していたあの侯爵のことを考えてしまう。
人を人とも思わない侯爵様が、何の収益も無いあの極寒の地を領地として持ち続けていたのは、今回の私のように目障りな人間を隠してしまうのに最適だからであろうか。
「誰かを誘拐して隠す場所を、貴族だったら持っているものなのかしら?」
「そんな場所を作るのはあの糞だけだよ。普通はね、収益が無い場所を管理することで国から援助金も出るんで嫌々ながらも管理しているって感じかな」
ツン。
イアンは悪戯そうな顔付きで私の額を突いた。
その仕草に胸にもなんか刺さりました。
「そんなくだらない奴のことを考えるのはやめようよ?」
気を紛らわせなきゃ、あなたという存在に心臓が止まりそうなんです。
その素晴らしきお顔で私を見つめると、ほら、心臓が爆発しそうにどきどくしてしまうじゃありませんか。
「えう、あう」
「君には出来るならば俺のことばかり、それも嫌らしい感じで考え込んでくれると嬉しいけど?」
「ほ、ほわあああ。えっと、それって、あの、こっちから責めたら恥ずかしそうな顔をするかな、とか、くすぐったりしたらどうかな、とか、お尻突きたい、とか、考えてたこととか、実はやっぱり気が付いていた?」
私の大好きなイアンは、華々しい外見が嘘かもと思える表情になった。
なんか適当に作った土人形みたいな顔付になってしまったのである。
すん、という擬音を付けたい感じ。
「イアン? えと、私ったら、しまった、って感じかな?」
彼はふっと微笑み、私の頭にそっと右手を添える。
そして私へと身を屈めると、いつもの素敵な声で私に囁いた。
「恥じらい、そこは大事にな? あと、考えるばかりじゃなくて実行しろよ。うん。君の変な願望聞いて引くよか行動されてきゅんとなる方が俺として良い」
私は、にへら、と顔が緩んでいた。
さあ、妄想どこから実行しましょうか?
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