錬金術師と赤いもの

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ある嵐の夜です。 暗闇の空に稲妻が光る中、錬金術師は遂に作業の最終段階に達しました。 彼は最後の材料を大釜に入れ、そっと呪文を唱えます。 すると部屋は、まばゆい光に包まれ――それが消えると、大釜の底には小さな赤い石が。淡い光を放ちつつ、ひっそりと現れていました。 弟子は驚きに声を上げました。 「お師匠様! これで賢者の石の完成ですね!」 錬金術師は微かに笑みを浮かべると、弟子にその石を手渡しました。 「そうだよ、これが賢者の石だ。だが、大きな力を持つ物を作るには、それに見合う代償が必要になる」 「え……?」 「賢者の石は、それを作った者の命を吸い取るのだよ」 弟子の目は恐怖で見開かれました。 今までの師匠の体の異変は疲れからだと思っていたのに、そうでは無かったのです。 これでは、いくら休息を取っても……。 「どうしてですか、お師匠様! 何故、自分にも賢者の石作りをさせてはくれなかったのです! 二人で分散すれば、あるいは……!」 錬金術師は弱々しく、ぽんぽんと弟子の肩を叩きました。 そして、囁く様に語ります。 「いいかい? お前は私にとって、実の子どもの様な存在だ。それなのに、どうして危険な目に遭わせるなんて事が出来るだろう」 「お師匠様……」 「これが命取りになるかもしれないという事は分かっていた。だが、お前に最後の教えを与える事が出来て、私は満足だよ」 「最後の、だなんて……言わないでください……」 「錬金術師の最大の仕事は富や不老不死を求める事では無い、それは分かるね?」 「……はい」 「我々のなすべき事、それは他者への愛情と配慮にあるのだよ」 弟子の目には涙が溢れ、自分への気遣いによって師匠が『この結末』を選んだのだと悟りました。
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