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感じた視線
季節はすっかり夏になり、じっとしているだけでも汗がひどく流れる。
短答式試験が夏休み前に終わり、夏休みに入った今は結果を待っている状況。
全然焦ってない巧眞くん、すでに論文式試験に備えて、勉強の毎日は変わらず続いている。
それもそのはず、論文式試験まで一ヶ月ほどしかないんだ。
勉強漬けの毎日でも、ピリピリしたりイライラすることなんて全くなくて、僕と顔を合わせる時はいつも満面の笑みを見せてくれる。
セックスは一年生の時に比べたら半分くらいになった。それでも半分はしているし、激しさも回数も以前と変わらないんだから、巧眞くん、すごいよね。
「ねぇ、僕のためにセックスしてるの? 」
終わったあと、なんとなく訊いてしまう。
「なんでそんなこと訊くんだよ」
「…… だって…… すごく疲れてるでしょう? 無理しないで、お願いだから」
大丈夫だよ、僕、そんなに我慢できないわけじゃないし(できないかもだけど)、何より巧眞くんに無理をして欲しくない。
そういうと、ガバッと体を起こして僕の上に覆い被さり、髪を撫で、額を頬を撫でる巧眞くん。
「…… そんなふうに言われたら、俺がしたいからだって、かっこつけてるみたいで言えないじゃん」
ちょっと不貞腐れたように言った巧眞くんが可愛かった。
「我慢してんだよ、俺…… 勉強にひと区切りついた時なんか、柚羽を抱きたくてたまらないんだから」
下から、黒目だけ動かして巧眞くんを見つめた。
そんなことを言ってもらえて嬉しかった。
吸い寄せられるように唇が重なると、いつまでもいつまでもキスを続けた。
二人の舌がまとわり付いて離れない、混ざり合った唾液を巧眞くんが吸い上げ飲み込み、そして僕は、流し込まれた唾液を飲み込んだ。
目が覚めた時には相も変わらず僕は抱き枕になっていて、眠る寸前まで、ぎゅうっと抱きしめられていたような姿勢に、この上ない幸せを感じた。
二学期が始まり、巧眞くんの予備試験、論文式試験も終わっている。
短答式試験はもちろん合格、順位は三十二位。
合格通知のハガキを見せてもらい、驚愕した。一万五千人を超える受験者の中で、三十二位だよ、それでも巧眞くんは納得していないようで、
「もうちょっと上にいってると思ったんだけどな」
なんて、眉をひそめて不満気だった。
論文式試験の結果は十二月に入ってから。長い期間待たされるけれど、当然ながら、すでに口述試験に向けての勉強に取り組んでいる巧眞くん。
一位合格を目指すって、もう、レベルが合否じゃなくてすごい。
ふと滝澤氏を思い出し、どうしただろうかと、だいちゃんを思った。
二学期始まって最初の『倫理学Ⅱ』の授業、巧眞くんは一緒じゃない。
「…… 久しぶり、だいちゃん…… どうだった? 」
恐々と訊いてしまう。
もしものことがあるかもしれないし。
「あ、ゆずくん久しぶりっ!ひーくんのこと? 」
「う、うん」
「短答式は合格して、論文式の受験も終わったよ。辻家さんもでしょ? 」
「うんっ」
はぁーよかった、ひとまず胸を撫で下ろした。
「十二月までドキドキだね、僕たちが受験したわけじゃないのにね」
「だよね」
そう言って二人して顔を見合わせて笑った。
「あの、さ…… 」
「ん? どうしたの? ゆずくん」
「どういう流れで、一緒に暮らすことに、なった、の? 」
ノンケだったはずのだいちゃんに、結局なんでも先を行かれてしまっている感。
でも、これはどうしてなのか聞きたかった。
「どういう流れ? んー? 」
「滝澤さんから? だいちゃんから? 」
「すごい食いつくね、ねぇ、辻家さんも一人暮らしなんでしょ? ゆずくんも一緒に暮らせばいいのに」
だからさ、どういう流れでそうなったのか、参考のために聞きたいんだ。
「うーん、だいちゃんたちみたいにさ、互いに一人暮らしだったら、一緒に住んで生活費の節約、とかになるでしょ? 僕は実家暮らしだからさ、なんていうか…… 」
「押しかけ女房しちゃえばいいんだよ」
「え? 」
ほんと、だいちゃんって見かけによらず大胆で驚くことばかりだな、そんなの、考えたこともない。
「あ、そうそう、そういえば『僕、来月でアパート引き払ってひーくんのところに行くね』って言った気がする」
「いきなり? で、滝澤さんはなんて? 」
「それがいい、って言ったかな? 」
頬杖をつきながら、軽く眉間に皺を寄らせ記憶を辿るように言う。
そうか、でも僕には引き払うアパートなんてないもの。
「ゆずくんだって気になるでしょう? 今夜は何を食べるんだろう、食べたんだろうって、朝は起きれたかな? とか、洗濯物溜まってないかな? とか」
何を食べたかは、巧眞くんの部屋に行かないときはいつも気になっている。洗濯物とか、朝の目覚めとかは、大丈夫だから気にしたことないけど。
少しのもやもやを抱えながら、それでも今まで通りのペースで巧眞くんの部屋に行き、できる限りのことはしていた僕。
あっという間に季節は過ぎて、もうすぐクリスマス。
去年のクリスマスは、初めて二人で迎えたクリスマスで、ケーキを買ったりチキンを買ったりしてちょっとはしゃいだ。
すごく楽しかった。
今年のクリスマスはおあずけ、僕の大学受験を思い出す。
程なく、論文式試験の結果が届き、またも驚愕。
もちろん合格、三千人を超える受験者の中で十位。
それでもまた不満気な巧眞くん。
でも、
「お祝いしようよ」
と言うと、ものすごく嬉しそうに笑ってくれた。
来月の終わりには、最終試験が待っている。
そんな頃だった。
一人で街へ買い物に出かけたときに視線を感じ、そちらの方に振り向くと、あれは間違いなく巧眞くんのお父さん。
じっと僕を見つめていた。

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