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「だ、大丈夫……、」
日菜子の返事を聞いても俺は完全には安心できない。
あちこちに視線を彷徨わせる。
すると、
「おい、何2人だけの世界に浸ってるんだよ!」
もう一人いた野郎が俺に悪態をつき威嚇してくる。
なんだコイツ?
そう思いながら睨み返せば、床に転がっていた奴の方が日菜子へと手を伸ばそうとしていた。
「おいっ、触んなよっ!」
頭にきて怒鳴りつければ、慌てて男は手を引っ込めた。
俺は日菜子を背中でかばうようにして前に立つ。
「お前ら、誰に声かけてんだよ!ふざけんなっ!俺のツレに手を出してタダで済むと思うなよ!」
怒りのせいで俺の声はいつもより低い。
倒れていた男も立ち上がり、あっちは二人で怒りの形相。
「お前こそ、何様だよ!」
細く長い息をゆっくりと吐き、俺は凍りつくような冷めた眼でそいつらを見下ろす。
俺より随分小さい野郎ども。
背中にいた日菜子が恐怖からか俺のワイシャツをそっとつかむ。
それに気が付いた俺はそんな思いをさせたこいつらを許すことが出来なくて、怒りが自分を支配する。
もう一歩と、前に出たタイミングで――――、
「おいっ、まさか、こいつ湖我だぞ」
1人がこそこそっともう一人の方に耳打ちした。
「え?湖我?」
驚いた表情を見せた後、俺の顔をまじまじと見てくる男。
そして次の瞬間、今度はみるみるうちに顔面蒼白へと変化した。
「わっ、やば、マジだ。コイツ……」
「やべーよっ!もういこうぜっ!」
2人はコソコソと話し合い、あわてて店内を逃げて行った。
フーッと息を吐き、店内は静寂に包まれた。
俺は後ろを振り返り日菜子の様子をうかがう。
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