第三章 興味

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「日菜子、大丈夫か?」 心配でその顔を覗き込めば、日菜子は胸のあたりに左手をそっとあてていた。その表情は少し複雑で感情を読み取れない。 「苦しいのか?」 心配になって尋ねれば、小さく首を振った。 なら、怖かったせいか……? 俺はどうしていいかわからず、見ている事しかできない。 「日菜子……ごめん。」 そして結局謝る事しかできないんだ。 「え?」 日菜子が俺を見上げる。 「俺がこんな時間まで1人で待たせてたから……」 俺の勝手な都合のせいで…… 「敦宏君のせいじゃないよ」 小さな声だったけれど、日菜子はそう言ってくれた。 俺のせいじゃない――――、日菜子の言葉に少しだけ心が軽くなり、衝動にかられ日菜子の頭を優しくポンポンと撫でる。 「座ろうか……」 日菜子を促し椅子に座らせた後、俺は自分が倒したり動かしてしまった店内の椅子を元の位置に戻した。 静まり返ってしまっていた店内は元の喧騒へと戻り、俺は日菜子へと視線を向ける。 ん? 日菜子は俯いたまま、片方の手首を気にしていた。 「日菜っ?」 優しく呼びかけると、日菜子はゆっくりと顔をあげ、その瞳に俺を捕らえた。 なんとも言えない表情をしている。 「日菜っ、大丈夫か?」 「えっ?」 「手首、痛む?つかまれたのか?」 「あ……」 俺は日菜子の前にしゃがみこみ、日菜子の手に自分の手をそっと重ねた。 安心させたくて―――、
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