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「ねぇ、喉、渇かない?」
日菜子が俺に言ってきて、一瞬ポカンとしてしまった。
「ジュース、飲みたい。一緒に飲まない?」
日菜子が笑いながら俺を誘うから、単純な俺はそれだけでテンションをあげた。自分で思う以上に舞い上がった気持ち。
嬉しくなって、ぶんぶんと無意味なくらい大きく何度も頷いた。
すぐ近くにあった公園の入り口の自動販売機で、ジュースを2本購入。
それから公園内のベンチに移動。
隣に座った日菜子にジュースを手渡すと「ありがとう」と小さく笑った。
俺もゴクリと一口、喉を潤す。
公園内は人のいる気配はなく、とても静かだった。
さっきの出来事が嘘みたいな穏やかな時間が流れている。
けれど、無かったことにはできないし、そうはならない。
だから――――、
「日菜子、今日はごめんな……」
「え」
「俺が遅くなったせいで……変な奴に絡まれたろ?」
「……」
長い間の後、日菜子が首を左右に振った。「敦宏君のせいじゃないし」
ボソッと小さく抗議のように呟く。
「何もされなかったよな?」
心配で聞いてしまった。
「ちょっと髪と手を触られただけ……大丈夫」
日菜子が自分で自分の手をそっと握りしめる。
なんだか不安を自分でやわらげようとしているかのように見えた。
「日菜っ」
名前を呼び、日菜子の手をそっと上から握った。
日菜子がピクッと肩を震わせ、一時停止。
俺は反対の手を日菜子の後頭部に回し、自分の胸へと引き寄せた。
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