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あめあめ坊主
雨上がりの水たまり。その水面越しに、私は私の姿を見ている。私は今日も、逆さまに吊るされている。
主人が幼い頃に、今は姿なき母に作ってもらい、生まれた私は、主人にとっての、母の形見なのである。
我が主人の仕事の都合上、雨が降ってくれている方がいいのだ。雨は主人の行った仕事の痕跡や証拠を、全て洗い流してくれる。
雨の日は皆が大抵、傘をさす。すなわち、片手は必ず塞がるということだ。加えて最近の人間たちは、スマホとやらの操作に夢中となる傾向にあり、それと傘とを合わせれば両手は必ず塞がってしまう。なんとも危機感なく、無防備なことか。主人からすれば仕事をこなしやすく、好都合だ。加えて多少の音を立てても、雨音がそれを吸収してくれるから。
晴れの日はこの家から一歩も出ず、雨の日を特に好んで仕事をすることから、仕事の同僚たちは、主人をいつしか雨男、と呼ぶようになった。
主人が私の前で立ち止まり、私を見、私に向かい、目をつむって、静かに手を合わせ始めた。私はハッとした。
そうか。二十年前の、今日だったか。
主人の母が吊るされた私の隣で、私と同じ状態で息絶えているのを、まだ子どもだった主人が、発見したのは。
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